AIペンギンミステリー(4) 第1話④

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《はじまりの日》(解答編・後)

🐧「もう一人の天才?」

「こそこそしないで出てきたらどうなの。盗み聞きなんて趣味が悪いわよ」

 天原白雪が指差した大木の陰からユラリと現れたのは制服を着た背の高い青年だった。

「なんだか面白そうな話をしてたからね。でも、隠れてたわけじゃない。僕は先にここにいたんだ。君たちが後から来て、そこに座ったというわけさ」

「でも、黙って話を聞いていたのは事実でしょ。感じ悪いわ」

 白雪にそう言われた青年は、やれやれという感じで首を振った。長い前髪で顔が半分隠れているので表情は読み取れないが、ちょっとバツが悪そうだ。

「知り合い?」とリュウが尋ねると、白雪は「まあね」と答えた。

「気分を害したならすまなかったね」

 そう言って立ち去ろうとする青年にリュウが声をかけた。

「興味があるならそこに座りなよ。お昼ご飯もまだみたいだし。話しながら一緒に食べたら?」

 青年はちょっと戸惑っているようだ。コンビニの袋をゆらゆら揺らして、遠慮がちに白雪に目を向ける。

「リュウ君がそう言うなら、私は別に構わないわ。あなたの言うことは参考になるでしょうしね」

「俺は大沢だ。お前は?」

「…結城」

「まさか、結城 勇樹? もう一人の天才のお出ましかよ!」

 リュウはきょとんとしている。

「さっき話しただろ。AI学園の入学試験を免除された天才高校生が二人いるって」

「彼の分析力はたいしたものよ。人間を越えた脳の持ち主よ」

 大沢がリュウに説明すると、白雪が補足してくれた。

「世の中にはすごいやつがいるもんだな。オレにとってはトンビに弁当を取られたやつと、木陰でかくれんぼしてたやつだけど。まあ、とにかく昼飯を食おうぜ」

 リュウはそう言いながら弁当の包みをほどいて弁当箱のふたを開けた。小ぶりのヒレカツにブロッコリー、タコさんウィンナーにミニトマト、煮物…。おかずがたっぷり詰まっている。中でも、きれいな色をした玉子焼きはたくさん入っていた。

「うひょ~。さすが、リホちゃん。今日もナイスなお弁当だな! 玉子焼き、ひとつくれよ」

 大沢は返事も待たずにサッと玉子焼きに手を伸ばした。

「あ、ちょ、待てよ。まったく…。玉子焼きだけだからな。そういや、おかずないのも寂しいよな。玉子焼きだけ分けてやるよ」

 リュウは弁当箱のふたに卵焼きを取り分けて、白雪と結城に勧めた。

「おいしーい。しっとりしてる。卵の味がする」

「玉子焼きだからな」

 コンビニの袋からモソモソとサンドイッチを取り出した結城も玉子焼きをぱくりと食べた。

「うまいだろ。リホちゃんの手作り玉子焼き」

 なぜか大沢が自慢している。

「…玉子焼きがこんなにおいしいものだとは知らなかった」

 結城はじっと玉子焼きを見つめている。

「大袈裟だなぁ。焼き立てはもっとずっとうまいよ」

「こんな玉子焼きを食べられるなんて君は幸せ者だな」

 つぶやくような小さな声で結城はそう言った。

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【 解答編~後編 】

リュウ「それで、話の続きだけど」

大沢「おう、俺様の出番だな。誰も気がつかなかった秘密の問題はなんと最初のページ。名前を書く欄の上にあったんだよ」

大沢「なんか踊ってる女の子がいるなーと思って、電子ペンでつついてみたら、すぐ隣の下線のところでペンが反応したんだよ」

白雪「なるほどね。解答用のタブレットは答えを書く欄以外は電子ペンが反応しないようになっていた。でも、ペンが反応したから『文字を書ける場所』だって気がついたのね」

大沢「その通り! answerの矢印の先には踊っている女の子の絵! だから答えはanswerにdを加えて『danser』だ!」

リュウ「惜しいなー」

大沢「え、ええ? 踊ってるんだからダンサーだろ?」

白雪「ぷっ。ふふふふ。wが消えてるし」

結城「そんな間違え方ってあるんだな」

白雪「途中までは良かったのにね。でも、答えは『dancer』よ。スペルが違ったわね」

大沢「なんだって~」

結城「それに君は『問題には気がついていなかった』ようだね。すぐそばに色のついた二つの四角があっただろう。あれが問題だったんだよ』

大沢「問題?」

 結城はショルダーバックからメモとシャーペンを取り出すと正方形を二つ書いた。フリーハンドなのにすごくきれいな形だ。その正方形にスッと直線を引いていく。

結城「色がついていたからわかりにくかったかもしれないが、こうして線だけを書いてみると…」


大沢「ああっ、カタカナだ!  四角の中に『トケ』って書いてある」

白雪「そういうこと。つまりあなたは問題に気づかずに答えにたどりついたけど、間違えちゃったってわけね」

大沢「ギャー」

リュウ「問題がもう一問あったのは気づいてた?」

大沢「へ? もう一問? 俺が見つけたのは、そのダンサー問題だけだよ」

リュウ「踊ってる女の子がほかにもいたんだよ。こんな感じの…」

 リュウは結城のメモに絵を描いた。

大沢「なんだこりゃ。原始人か?」

 白雪と結城は腹を抱えて笑った。

リュウ「どうせオレは絵が下手だよ…」

結城「いや、すまない。でも、これ…。ははは」

 結城は先程と同じようにきれいな正方形を二つ書いた。そして、ダンサーの絵も。


白雪「すごいわね。再現性、たかーい」

大沢「確かになんか見た覚えがある。でもどこでだっけ?」

リュウ「最後だよ。『おまけ問題』の下にあったんだ」

白雪「どうでもいいと思われる『おまけ問題』のさらに下に秘密の問題が隠れてたってわけね」

大沢「四角には『ヨメ』って書いてある。これが問題文だったんだな。でも、答えは?」

リュウ「その踊ってる女の子たちだよ」

大沢「はあ?」

リュウ「女の子が文字になってるんだよ。手をつないでいる二人が『H』、次が『O』、最後が『P』。ダンサーの横の下線の解答欄にはあらかじめ『E』が入っていたから、答えは『HOPE』」

大沢「ほんとだ…。ちゃんと問題になってる」

*12時40分です。1時までに席に戻ってください*

アナウンスが流れた。

結城「それじゃ、そろそろ行こうか。面接試験も気を抜かないで」

大沢「まあ、俺もリュウも試験問題ボロボロだったから、もう無理だろうけどね」

白雪「そうかしら? そうそう、ちゃんと聞いてなかったわね。あなた、名前は?」

大沢「大沢大だ」

白雪「あんたじゃないわよ。リュウ君に聞いたのっ」

リュウ「オレ? 吉水リュウだけど」

白雪「覚えておくわ。これからもよろしくね!」

大沢「おう。お前もがんばれよ!」

白雪「だから、あんたじゃないって!」

 リュウたちは自分のブースに戻っていった。午後1時からは面接試験が始まる。

(どんなことを聞かれるんだろうなぁ。《AI学園》っていうくらいだから、ロボットが面接したりして。まさかね…)

大沢の言う通り午前中の試験は絶望的だったが、この時間を楽しもうとリュウは思った。

《 To be continued… 》

次回は、

(5)【第2話《おかしな面接》「1+1=?」

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🐧 今回はここまで。

解答編がこんなに長くなるとは…。

始めたばかりで手探りの状態ですが、楽しんでいただけたらうれしいです。

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